近年、目覚ましい発展を遂げている「AI(Artificial Intelligence:人工知能)」は、人間の脳が備えている知的能力をコンピュータシステムによって再現したものです。従来のように、事前に人間が作成したプログラムの指示通りに処理を行うのではなく、事象の認識から分析、判断、学習、予測などまでを自律的に行えるため、ビジネスを進める上で人間のサポート役として大きな注目を集めています。
しかし、この万能に見えるAIにも“できること”と“できない”ことがあります。そこで本記事では、AIが持つ特性を見極めて、自社のビジネスに活用する方法を見ていきましょう。
この記事の目次
業種によって大きく異なるAIの活用度
現在、さまざまな業種で注目を浴びているAIですが、業種によってAIの活用度合いにどれくらいの差が見られるのでしょうか。
MM総研が2017年6月に発表した「『人工知能のビジネス提供価値を考える』― 人工知能のビジネス活用概況2017年度版」によると、2016年度における日本市場へのAIの業種別導入率は、金融業が7.8%でトップ、次いで情報通信業の6.9%で、以下製造業(2.5%)、運輸業(1.7%)、医療・介護分野(1.0%)と続いています。他業種と比べて、金融業と情報通信業の導入率が先行している理由としては、ソフトウェア中心の業務が多いためにAIを導入しやすい、ということが挙げられるでしょう。また、これまでのビジネスでAIの学習や分析に必要な大量のデータが十分に蓄積されている点も、AI活用が進めやすいポイントといえます。
一方で導入率が低い業種としては、農林水産業(0.1%)とサービス業(0.4%)が挙げられます。特に、これまで全体的にICTの導入が遅れている傾向が強かった農林水産業では、AIを活用できるシーンが限られてくることに加えて、他業種と比べて蓄積されたデータが少ないといった点が、導入率の低さにつながっているといえるでしょう。それでも近年では、ロボット技術やICTの活用で省力化・精密化や高品質生産を目指す新たな農業「スマート農業」の一環として、AIが採用されている例も出てきています。
出典:MM総研調べ
https://www.m2ri.jp/news/detail.html?id=238
AIの制約を理解する
ビジネスにおいて、人間の強力なサポート役となってくれるAIですが、実際に活用するにあたってはいくつかの制約があります。これらの制約を十分に理解してこそ、AIが本来持っている可能性を引き出せます。それではここから、AIの制約を見ていきましょう。
学習データの必要性
AIは万能だと思われがちですが、導入すればすぐに使える“魔法のツール”ではありません。人間の子どもが徐々に知識を吸収していくように、実用段階に至るには学ばせる必要があるのです。この学びに使うデータは「学習データ」と呼ばれています。
ビジネスで活用するためには、学習データとして、たとえば購買予測を行うなら購買データ、映像分析を行うならネットワークカメラの映像といったように、用途ごとに適した学習データが必要になります。しかも、AIは学習データが増えるほど賢くなっていくことから、求められるデータの量も膨大です。データ量が少ないと、分析の精度が低下したり、映像の中から対象を正確に認識できなくなったりしてしまいます。もちろん、地道に学習データを入力していくという方法もありますが、それでは実用段階までにかなりの時間を要してしまうでしょう。
そしてもうひとつ、学習データは“量”だけでなく“質”が求められることも重要です。AIによる分析や検知の精度を上げるためには、データを適正な形に整形したり、ノイズとなる不適切なデータを除去する「クレンジング」処理を行うなど、より“良質”なデータに仕上げることが求められるのです。
このように、“大量”かつ“良質”な学習データを用意できるかが、AI活用における壁のひとつといえます。
アノテーションの必要性
「アノテーション(Annotation)」とは、データに対して関連情報を付与することです。たとえば画像・映像認識の場合、人物が写っているデータに「人」や「女性」といった関連情報を付与して、AIが「正解」を識別できるようにします。これは、AIにおける研究分野のひとつ「機械学習(Machine Learning)」の中でも、脳科学の研究成果「ニューラルネットワーク」を基盤とした「深層学習(Deep Learning)」においては、特に重要な工程です。
しかし、このアノテーションを人間の手作業で行うには、多くの手間と時間を要してしまいます。こうした背景から、近年ではアノテーションを自動化できるソリューションも登場してきました。
ブラックボックス問題
AIは時として、これまで人間が収集できなかったデータの分析により、まったく新しい戦略立案などをもたらしてくれます。これは大変有意義なことですが、一方でAIが算出した分析結果の思考プロセスを、人間側が理解できないという課題か生じてきます。これが「ブラックボックス問題」です。
「ブラックボックス問題」において重要な懸念点が、AIによる分析結果が本当に正しいのか、その有効性を人間側で正当に判断できないことです。もし分析結果に間違いが含まれていた場合、思考プロセスが分からなければ、人間は間違い自体に気付くことができません。また、なんらかのトラブルで分析結果に誤りが生じても、エンジニアによる原因究明が困難になってしまいます。こうした点から、AIが算出した分析結果を本当に信用しても良いのか、といった議論が続けられています。
汎用的に活用できない
現在、さまざまな領域で活用が進んでいるAIですが、これらはあくまでも特定分野のデータを学習させる方式のため、「特化型人工知能(Narrow Artificial Intelligence)」と呼ばれています。特化型人工知能は、画像解析や音声解析、自然言語処理など、それぞれの分野において優れた実力を発揮するものです。しかし、たとえば同じ画像解析用のAIでも、物体検知と不良品検知ではその特性が異なります。言い換えれば、別の用途への転用が困難なため、汎用性の低さがネックともいえるでしょう。人間の処理能力は、ある特定分野において特化型人工知能に負けることがある反面、日々の生活内で出てくる多種多様なタスクをこなすことができます。つまり総合的な“知能”では、まだ人間を超えられていないのです。
これに対し、将来に向けて研究が進められているのが「汎用型人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)」です。汎用型人工知能は、特定の分野に依存することなく、さまざまな状況を自律的に判断・対応することができます。人間と同等レベルの知能を有する、それが汎用型人工知能です。
倫理の問題
人々が生活をする中で、善悪や正邪の基準となるのが「倫理」です。この倫理は“人間らしさ”を象徴する存在であり、日常生活における行動の基準です。人は仕事をする上で意識せずにその基準に従って働いています。ただ、AIは果たすべき役割に必要な情報以外のインプットがないのが通常であり、道徳的な学習を行わない限り、人であれば当然判断の前提となる道徳的価値観を加味した判断はできません。人は託された仕事を果たすための知識以外にもプライバシーやダイバーシティに関する理解があり配慮できますが、AIはそういった基準で判断できないのです。したがって、AIを使用する場面の選択に特別な注意が必要となります。
また「ブラックボックス問題」でも触れましたが、AIの思考プロセスは時として人間側の理解を超えることがあるため、AIが引き起こし得る過失をすべて予見することは困難です。そうした中で、AIが人間の倫理的な判断を迫られる局面に遭遇した時、どのような対応をとらせるべきなのか、それをどうやって教えるのか、といった部分も課題のひとつといえます。特に、あらゆる状況に対応できる「汎用型人工知能」が誕生した際、プライバシーを伴う情報の扱いや、人の健康や命に関わる状況下での判断などをどう学ばせるか、そして万が一のトラブル発生時には誰がどのように責任を負うのか、といった観点が問題視されているのです。
遅れを取らないためにやるべきこと
このように、AIのビジネス活用を進めるには、まずAIの制約を十分に理解し、活用領域において「できること」と「できないこと」、「得意なもの」と「不得意なもの」を見定めておく必要があります。とはいえ、一般の企業ではAIの活用についての検討と判断が難しい側面もあるでしょう。そうした際は、実際にAIソリューションを提供している専門家に相談してみることをお勧めします。その専門家が豊富な活用事例を持っていれば、「こんなこともできるんだ」と新たな気づきが生まれる可能性もあるでしょう。そんな一翼を担うパートナーとして、ぜひオプティムにもお声がけください。