「IoT」とは「Internet of Things」の略で、日本語に直訳すると「モノのインターネット」になります。身近なところでは、冷蔵庫や洗濯機などの家電をインターネット接続して暮らしを快適にするスマート家電、産業分野であれば生産ラインの設備稼働率平準化や異常の早期発見など、ロジスティクスであれば倉庫管理の改善や出荷システムの効率化など、IoTの活用分野は多岐にわたります。
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“モノ”と”インターネット”がつながることでより詳しい新鮮なデータを取得でき、新しい価値を生み出そうという試みがIoTの本質です。例えば、家電という”モノ”がインターネットにつながることで家中の家電をスマートフォン1台で操作できるようになり、外出先からでも操作できるようになります。最近流行っているスマートスピーカーも家庭向けIoTデバイスの代表例と言えるでしょう。
“モノ”というと抽象的ですが、IoTでは機械そのもの、また動作や電圧変化、そのほか気温や降雨などの自然現象、人間であれば体温や脈拍など、すべての情報を”モノ”と表現しています。例えば、スマートウォッチのようなウェアラブルデバイスは、人間の動きや体温、脈拍や歩数などを”モノ”と捉え、健康を守るヘルスケアツールとして人気を博しています。このようにIoTの活用シーンは無限大に広がっていると言えるでしょう。
ちなみに製造業などで「M2M(Machine-to-Machine)」という言葉もよく使われますが、こちらは人が介在せずに機械同士が相互通信するシステムを指し、機械同士が自動的に情報をやり取りするシステム全体を指します。一方、IoTは情報を受け取る人へのサービスまで含めた概念です。M2MとIoTはよく似ているので混同しがちですが、IoTはM2Mよりも幅広い概念であり、M2MはIoTのひとつの要素と捉えることができます。
これらIoTやM2Mの共通点は、センサーを取り付けるだけでは完成しないということです。センサーからデータを収集・蓄積し、それらの情報を活用する基盤「プラットフォーム」が重要になります。そこでIoTサービス全体を指すときに「IoTプラットフォーム」という言葉が用いられます。IoTプラットフォームの価値は、規模が大きくなればなるほど真価を発揮することです。今回は、そんなIoTプラットフォームの役割や種類、最適な選び方などをご紹介します。
IoTプラットフォームの役割
一般的に「IoTプラットフォーム」は、IoT活用に必要なさまざまな機能を提供するサービス全体を指します。IoTをビジネスに活用する場合、まずはIoTプラットフォームの全体像を理解する必要があります。一般的にIoTプラットフォームは、ハードウェア・ソフトウェア・ネットワーク・クラウドインフラなどを組み合わせた統合システムで、個別にシステム構築するよりも時間やコストを抑えることが可能です。製品によって方向性の違いはありますが主に以下の4つの役割を果たします。
デバイスマネジメント
IoTプラットフォームの主要機能のひとつが「デバイスマネジメント」です。IoTでは温度センサーや湿度センサー、加速度センサー、カメラやマイク、そのほかパソコンやスマートフォンなどのハードウェア・デバイスを接続し、統合管理する必要があります。IoTプラットフォームは、ハードウェア・デバイスの登録から管理、保守点検、接続デバイスの監視などの一元管理をクラウド上などで行うことが可能です。
デバイスからデータを収集&保存
IoTの特徴は、インターネットを介してサーバーやクラウドにデータを収集&保存できることです。収集したデータを自由に出し入れすることで、ビジネスの効率化を図ることが目的になります。IoTプラットフォームには、データの収集&保存に必要な通信モジュールやインターネット接続環境、クラウドサービスなども含まれます。
データの可視化
蓄積した情報をデータベース化するだけでは意味がありません。「デバイスマネジメント」であれば稼働しているデバイスの使用状況などのステータスを常に表示し、異常監視や進捗管理などを行う必要があります。そこでIoTプラットフォームには、収集したデータのリアルタイム表示やグラフ表示などの可視化が求められます。
データの分析
IoTでは、ときに数千というIoTデバイスが接続されるケースも珍しくありません。この膨大なビッグデータを分析し、ビジネスに活用することこそIoTプラットフォームの重要な役割です。分析結果を日常的にモニタリングできることはもちろん、農業分野であれば水や肥料の量を自動調整するといったシステムもIoTプラットフォームに含まれます。膨大なデータが蓄積されている昨今、分析の現場ではAI(人工知能)を用いるケースも増えています。
IoTプラットフォームの展開〜「垂直」と「水平」について〜
IoTプラットフォームの展開には、「垂直」と「水平」という考え方があります。以下の図を見ていただけるとわかりますが、業種に特化させた「垂直・機能フルカバレッジ型」はビジネスに合わせてオーダーメイドで構築できますが、開発に多大なコストがかかり、事業転換などに対応しにくいといったデメリットがあります。「垂直・機能フルカバレッジ型」を水平展開できれば理想的ですが、現状ではハイテク分野の大手企業などでないと難しいでしょう。一方で「水平・業種フルカバレッジ型」は、幅広い業種に対応できる基本的なプラットフォームとなり、必要に応じてカスタマイズできる汎用性が特徴です。
水平・業種フルカバレッジ型
すべての業種をカバーするために提供されているIoTプラットフォームです。IoTプラットフォームと呼ばれている製品はたくさんありますが、その中には一部の機能(例えば危機管理)しか対応していない製品もあります。「水平・業種フルカバレッジ型」は、ユーザーやSIerなどがIoTシステムをカスタマイズすることで、すべての業種に対応できる汎用性を追求した製品と言えるでしょう。
垂直・機能フルカバレッジ型
開発・導入から応用アプリケーション、基礎アプリケーション、クラウド基盤、ネットワーク、センサー類まで、IoTソリューション構築に関わるすべてをフルカバレッジで提供するIoTプラットフォームです。業種に特化したシステム開発が可能ですが、汎用性は低くなっています。
垂直・アプリ提供型
フルカバレッジ型から開発・導入・運用支援を差し引いたIoTプラットフォームが「垂直・アプリ提供型」となります。「垂直・機能フルカバレッジ型」と同様、業種に特化したIoTプラットフォームとなります。
垂直・基本機能提供型
目的や機能を絞ったIoTプラットフォームです。遠隔監視や予防保全のみに絞ったIoTプラットフォームなどが一部のベンダーからリリースされています。
そもそもプラットフォームが必要?まずはプロジェクトの要件定義からスタート
IoTプラットフォームを検討するにあたり、本当にプラットフォームが必要なのか、またゼロベースで構築するのか既製品を使用するのか、どんな機能を盛り込む必要があるのかを検討する必要があります。そこで重要なのが、自社のニーズとゴールを整理し、プロジェクトの要件定義を行うことです。その基本的な流れについてご説明します。
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ステップ 1
IoTプラットフォームの必要性と費用対効果を検討する
最初に自社のビジネスニーズを整理し、IoTプラットフォームを導入することで得られる投資収益率(ROI)や付加価値の大きさを検討します。IoTの活用が特に向いているケースとあまり向いていないケースがありますので、最初にゴールを決めることが重要です。プロジェクトが経過したら、設定したゴールと進捗状況を定期的に比較検討することで大きな失敗を避けることができます。
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ステップ 2
ビジネスの基本要件と関連メンバーを検討する
IoTを活用するには対象となるビジネスの基本理解とそれをIoTの設計に反映できるスペシャリストが必要です。理想なチームには、IoTアーキテクトの他にエンタープライズアーキテクトやデータサイエンティストがいます。
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ステップ 3
ハード・ソフトウェアに関する要件を検討する
まずはハードウェアやソフトウェアの構造を理解し、「IoTプラットフォームの役割」で説明している必要な機能を特定する必要があります。
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ステップ 4
既製品のIoTプラットフォームで対応可能か検討する
ビジネスニーズと費用対効果を検討し、業務ごとの要件を整理し、IoTプラットフォームの構造を理解したら具体的な導入を検討します。まずは既製品で対応可能か検討し、自社にマッチしたベンダーを絞り込んでいきます。
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ステップ 5
運用も見据えた社内の人材・スキルを検討する
大規模に対応できる拡張性が魅力のIoTプラットフォームは、設計・運用に高いスキルが求められます。そのスキルと経験を持った人材が社内にいるのか、さらに運用に支障がないかも事前に検討しておく必要があります。
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ステップ 6
既製品のIoTプラットフォームで対応できるのか判断する
ステップ1〜5を踏まえて、既製品のIoTプラットフォームが自社にマッチしているか判断します。既製品で対応が難しいようなら自社開発も視野に入りますが、莫大なコストがかかるので投資収益率(ROI)や付加価値の大きさと釣り合うのかは要検討です。
最適なプラットフォームの選び方
「IoTプラットフォームの展開」で説明したとおり、垂直型のIoTプラットフォームは開発段階である程度分野が限られます。その中でも予知保全など一部の機能だけで良いのであれば「垂直機能提供型」、ビジネス全体にIoTを取り入れるのであれば「機能フルカバレッジ型」のような選択になります。一方で「水平・業種フルカバレッジ型」は、将来的に機能拡張したい、ビジネスモデルの変更に対応したい、といった要望にも応えられる汎用性が魅力です。
また、IoTプラットフォームの選定では、以下のキーワードにも注意しましょう。このほかにも留意すべきキーワードはたくさんありますが、特に重要な3つをご紹介します。
コネクティビティ(接続性)
デバイス間の通信やサーバ・クラウドへのデータ転送など、IoTプラットフォームの真価を発揮するためにも不可欠なコア技術が「Connectivity(コネクティビティ/接続性)」です。通信方法はさまざまな技術やプロトコルがありますが、接続の簡易性やセキュリティの条件など用途によって最適な通信方法が異なります。そのため、できるだけ幅広い通信プロトコルに対応できることがポイントで、有線LANや無線LAN以外にモバイルデータ通信(2G/3G、LTEなど)やBluetooth、IEEE 802.15.4などショートレンジの通信方法に対応する機能が重要です。
セキュリティ・プライバシー・ガバナンス
IoTではインターネットに繋がっているデバイスは増えるとともに脆弱性も増えます。過去にはIoTデバイスがマルウェアに感染され、サイバー攻撃に悪用された事例もありました。そのため、デバイスと通信する際にセキュアなプロトコルが使用されていること、またはデバイスのリモート管理やファームウェアのアップデートができることが求められます。また、映像データのような個人情報を含むオリジナルデータはセキュリティの面から、容易にインターネット上にアップできません。クラウド上ではなく、エッジデバイス上で解析して結果のみをインターネットに流すようなエッジコンピューティングができることが望ましいと言えます。
拡張性
数種類のIoTデバイスをプラットフォームに繋げて活用することは簡単でも、数千台になった場合に同じような応答性とセキュリティが確保できるかを検討すべきです。多くのIoTデバイスは常にクラウドに繋がっています。数千のデバイスと同時に接続しても管理しやすく、効率の下がらない拡張性があるプラットフォームを選ぶと良いでしょう。
まとめ -最適なベンダーを見つけることが重要です-
IoTプラットフォームの役割や機能、選び方をご紹介しました。IoTプラットフォームを提供するベンダーは国内外あわせて現在700社以上あると言われています。IBM、GE、PTCといった海外の大企業はもちろん、ITベンダーや通信会社、大手メーカー系ベンダー、スタートアップなど、トレンドを見据えてIoTプラットフォームを開発提供する企業の競争は激化しています。
自社に最適なIoTプラットフォーム選びで悩んでしまいがちですが、「製造業に強い」「通信サービスに強い」「発電やプラント設備での実績がある」「IoT×AIの連携が得意」などベンダーごとに特色があります。業種や目的、コストなどで絞り込んでいくことで最適なIoTプラットフォーム&ベンダーが見つかるはずです。